東京高等裁判所 昭和48年(ラ)779号 決定
抗告人作成に係る念書と題する書面には、「本件公正証書表示の弁済期は、便宜的に定めたものであるから右弁済期を経過しても右公正証書により強制執行をいたすようなことはありません」旨の記載があり、この記載の趣旨について、相手方は「公正証書は便宜的なもので、したがって強制執行など一切しないというもの」というのに対し、抗告人は公正証書に基く執行は「好意的にある期間は待ってやろうという趣旨のもの」と主張し、互にその見解を異にし対立しているのでこの点について検討する。およそ意思表示の内容は、客観的に表示された文言にしたがって解釈されるべきものであり、その趣旨が明確でない場合には、意思表示がなされた当時の客観的事情当事者の意思等を斟酌して判断せらるべきであって、客観的表示をはなれてみだりに当事者の主観的解釈あるいは内心的意図によって解釈さるべきものではない。
このような見地から前記念書の趣旨を考えると、相手方主張のごとく本件公正証書による強制執行を抗告人は一切しないという意味において右念書が作成されたものではなく、公正証書記載の弁済期である昭和四七年一〇月三〇日の定めは便宜的な定めであるから右弁済期を徒過しても強制執行しないというその記載文言どおりの趣旨において、すなわち公正証書に表示されている金銭債権(件外学校法人沼津北学園が抗告人より昭和四五年八月一一日から同四七年七月三一日までの間に借りうけた金銭債務の残額金一、八二二万七、八四五円およびこれに対する同年一〇月三〇日まで年一割五分の利息ならびに年三割の割合による損害金)の債権について定めた弁済期昭和四七年一〇月三〇日は単に便宜上のもので、それを過ぎたからといってすぐに履行すべきものとなるのではないという趣旨であって、結局真実の弁済期ではないというにあるか、もしくはこれにつき期限の猶予を相手方に与えた趣旨のものであることが明らかである。
そうだとすると右債務は消費貸借にもとづくものであって、これが期限の定めのないものというべきであるから、右のごとき債務については債権者たる抗告人は相手方に対し相当の履行期間を定めて催告のうえ、その履行が右催告期間を経過してもされない場合にはじめて弁済期が到来しても履行がなされないものとして強制執行に着手しうると解すべきである。右事由は債務者の主張すべき抗弁ではあるが、債務者たる相手方がこれを執行異議の異議事由として主張する以上右抗弁の主張があるものというべきである。
しかるに記録によると本件の場合右のごとき催告がなされた形跡は認められない。尤も強制執行の申立てに催告の効力を、あるいは執行官が執行に着手する際の催告(民訴法五四一条)に債権者がなす催告と同一の効力を認める余地があるとしても、引き続き直ちに強制執行がなされている本件の場合、強制執行自体に前記のごとく催告なくして着手した違法が存し取消さるべきものであると解される以上、右のような効力を認めることはできない。
(浅沼 田嶋 加藤)